「お稲荷さんの話」


 あんなあ、向内のお稲荷さんの話してやろか。

 大正十年ごろやったやろか、お稲荷さんの西に鶴吉云う人がおっちゃってなぁ、鶴吉っつぁんは、白道路の生まれやったけど若いとき台湾へ渡られて、巡査はんをやっとっちゃったそうや。その鶴吉っつぁんがそこへ帰ってきちゃって「写真屋」を始められたんやけどこんな田舎で儲かるわけあらへんやろ。そのうちだんだん面白うのうなって、お稲荷さんを信心されるようになっていたんやけど、とうとう祈祷師になっちゃった。本でもやっぱり田舎のこっちゃ、そうお客があるわけなかろが、ほんでかどうか鶴吉っつぁん一人で中舞鶴へ出て行っちゃった。
 そしたらやっぱり町のこっちゃ、どいらい流行って全部町へ引き上げることになったんや。そんで運送業の前田はんに頼んで、一財産台車に積んで運ぶことになったんやが、いち大事なお稲荷さんだけは上積みにして、「絶対に中見たらあかん、覗いたら目つぶれるで」ときつう言われたそうな。

 前田はんは合点してここから真倉まで来た。いつものところで、牛が勝手に一服しよったんで荷台にこしかけて休んどったら、お稲荷さんのご神体の入れたる箱がガタガタゆれとる。それで、はじめは見たら目つぶれる思て辛抱しとったけど、見るなゆうたら見となるんは当たり前や縛ってある縄をゆるめて箱の中をのぞいた。ご神体がいたいた。
 ネズミの様なちっちゃい動物で「イズナ」という名前やったそうな。そいつが五、六匹いたやろか。そこで、そいつに逃げられたら大変と慌てて蓋をして、急いで中舞鶴へとどけた。ほして、駄賃をようけもろうて、喜んで晩に家に帰ったら、もろうた駄賃がみんなぁ、無くなっとった。これは、どこかに落としたのか不思議なことであった。その後、ご神体のイズナ様が真夜中に、中舞鶴からたった一匹で懐かしい古巣に帰ったゆうて、知らせに来よったんやて。ほんだけの話や。ほなまたな。